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龍月の後悔

last update Last Updated: 2025-10-18 19:15:11

龍月視点:

「龍月、起きて。もう時間よ」

柔らかい声……愛のこもった声で俺を起こすその女性は……

ハッとして目が覚める。ガバッと起き上がり、周囲を見渡す。部屋は冷たく、人の気配は無い。俺は溜息をつき、目を押さえながら首を振る。もうずっとこの状態である自分に笑う。ベッドから足を下す。立ち上がろうとして眩暈を感じる。でも誰も俺を支える人間は居ない。

身支度を整え、部屋を出る。リビングへ向かう途中、声が聞こえて来る。

「龍月がもう起きて来るわ、早く用意なさい」

俺はその声を聞きながら、リビングに入る。

「龍月」

そう言いながら俺に駆け寄って来たのは華凜だ。

「おはよう」

そう言って微笑み、俺の腕に触れる。

「おはよう」

そう笑みを作って返すと、華凜が言う。

「朝ごはんがもう出来るわ」

そう言う華凜に俺は言う。

「今日は随分と早くから家に来てるんだな」

華凜が少し悲しそうに微笑む。

「えぇ、だって今日は……」

そう言う華凜に俺は微笑み、華凜の頭を少し撫で、言う。

「悪いが仕事が立て込んでる。俺はもう仕事に行く」

俺がそう言うと華凜が俺を見上げる。

「今日は一緒に居てくれるって約束したのに……」

俺は華凜の肩に手を置き、言う。

「すまない」

家を出ると車が待っている。車に乗り込んで聞く。

「何か掴めたか?」

そう聞くと秘書の門田が言う。

「まだ何も。方々手を尽くしていますが」

そう言われて溜息が出る。走り出した車の窓の外を流れる景色を見ながら思いを馳せる。

5年前の今日、華凜が流産した。俺の子を宿した華凜を大事に思うあまり、俺は杏に離婚を迫った。杏は抵抗する事無く、離婚に応じ、清々しいくらい潔く出て行った。それ以降、杏の行方は分かっていない。

そして。

杏が出て行った後、杏の妊娠検査票を発見した。俺は責任を病院の連中に追求し、それでも誰も杏の行方も、杏と一緒に居るであろう弟の桃李の行方も分からなかった。その時の病院の関係者をほぼ全て解雇処分にした。俺が使える力を駆使して杏の行方を調べさせたが、杏はその痕跡を完璧に消し去ったのだ。

俺の子を宿した華凜はその後、家に入る事を許されなかった。杏と俺の離婚の切欠になったあの運転手が見つからなかったからだ。俺の両親は杏を信じ、華凜が篠江家に入る事を許さなかった。そして杏との離婚が成立してすぐ、華凜は流産した。俺は俺の子を宿した華凜が流
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    峰月杏を初めて見たのは社内のコンペだった。彼女の作ったというデザインは素晴らしく、優秀賞を贈るのに相応しいと思えた。コンペで表彰されていた彼女は周囲の人間からの嫉妬の感情をさらりと躱しながら、上手く立ち回っていたと思う。こんなに優秀な人材がまだ我が社に居たのかと思い、彼女の事を調べさせた。彼女は5年前に東山市に越して来て、双子を出産し、3年前に我が関麗グループに入社した。東山市に越して来るより前の事は現在も調べさせているが、はっきりしなかった。つまりそれは、彼女の産んだ双子の子供の父親は誰か、分からないという事だ。そして一緒に暮らしているのは彼女の弟の峰月桃李。最初は弟だと言って、身分を隠しているのかと思ったが、そうではなかった。峰月桃李は優秀な医師で、小さな診療所で医師として働いている。峰月杏を支えながら。彼ほどの医師ならば大きな病院でも十分に勤められるだけの腕はある。だが峰月桃李は小さな診療所に勤務していた。峰月杏も峰月桃李も、まるで何かから隠れるように暮らしている。(誰かに追われているのか……?)そう考えたけれど、こればかりは本人に聞かないと分からない。そしてそれを聞けるほど、俺たちの仲は深くない。おじい様と彼女は時折、ランチを一緒にしているのを見掛けているが、俺はその中へ入っては行けなかった。それでも彼女が我が関麗グループに居る限り、チャンスはある。◇◇◇お店を出た所で、スーツ姿の男性に声を掛けられる。「峰月杏様でしょうか」急に声を掛けられて少し驚く。「はい、そうですが」子供たちも不安そうに私を見上げている。「私は関陽斗様から、峰月杏様、及びそのお子様方、ご友人をご自宅まで送るようにと言い付かっている者です」そう言って彼は首から下げている身分証のようなものを差し出す。それには関麗グループ 専属運転士と書かれている。役員たちが乗る車の運転士さんのものだ。「関社長が車の手配をしてくれたって事?」晴美がそう言って私を見る。急にどうしたんだろう。どうして関陽斗が車の手配を……?戸惑っていると運転士の方が言う。「乗って頂かないと、私が罰せられます……」そんな運転士の様子を見て、晴美が言う。「乗せて貰おうよ、せっかくだし」晴美は停めてある車を見て、私に耳打ちする。「ご友人って事は私も含まれてるんでしょう?運転手付きの、こんな役員しか

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